センター長挨拶

国際ワクチンデザインセンター設立理念

2022年東京大学医科学研究所 国際粘膜ワクチン開発研究センターは4月1日より国際ワクチンデザインセンターとして生まれ変わります。国際ワクチンデザインセンターが中心となり、所内学内のみならずグローバルな産学官連携の研究および臨床研究ネットワークを形成し、研究を展開することで国際共同利用・共同研究拠点を機能強化し、またこの基盤を活用して、人材育成も進める予定です。

2020年、新型コロナウイルスのパンデミックは、人類がいまだ感染症を克服できていない事実を我々に突き付け、ワクチンの開発研究の重要性を明白にしました。世界中でワクチン開発が開始され、歴史上例を見ない速度で有効なワクチンが開発され、これもまた世界中で歴史的なワクチン接種事業が行われていますが、本当に今世界で開発されたワクチンは有効で安全なのか、なぜ日本のワクチン開発が遅れているのか、日本の基礎研究がなぜワクチンの臨床開発にスムースにつながっていかないのか、課題は山積しています。ポストコロナ時代のワクチン開発研究はいかにあるべきか、我々に突き付けられた課題として重く受けています。

ジェンナーの種痘の発明から2世紀を経ても、多くの感染症においてワクチンによる制御が実現していません。その主たる理由として、研究に用いる近交系の動物モデルと比較しヒトの免疫応答は非常に個体差が大きく、また感染病原体はヒトの免疫システムをかく乱させることがあり、病原体に対するヒトの免疫応答は必ずしも感染防御に最適とは限らないことなどが挙げられます。

ポストコロナ時代において、感染症におけるヒトの複雑かつ多様な免疫反応の中から、病原体の「アキレス腱」に矢を打てる免疫応答を見出し、その反応をヒトで忠実に、かつ迅速に再現できる新たなワクチン開発技術が希求されているのです。この課題を解決するため、2021年4月東京大学医科学研究所国際粘膜ワクチン開発研究センターは上記の課題を解決するため、あらたに国際ワクチンデザインセンターとして新しいワクチン開発研究の拠点として活動を開始します。

では、上記の課題を解決するための鍵は、何でしょうか?そのカギは医科研が世界にさきがけて進めているヒト免疫の多様性の、より高解像度の計測技術とシンプルかつ正確なワクチン設計技術にあると考えました。日本がリードしてきた免疫学、ゲノム医学などの領域にAIテクノロジーの分野を加え、ヒトの遺伝子情報などをビッグデータ化することで、多次元のイミュノミクス(後述)から得られた病原体や標的疾患の「アキレス腱」にあたる抗原、そしてそれを射抜く「矢」にあたる免疫応答を見出すことを目指します。

当センターのメンバーはワクチン開発研究に必須な「抗原」「アジュヴァント」「デリバリーシステム」の3要素のモジュール化を目指す異分野融合型のグローバルな研究チームから形成され、ポストコロナ時代を見据えた「新次元のワクチンデザイン」を進めています。所内学内のみならずグローバルな「真の」産学官民連携の研究を進めることのできるネットワークを形成し、開発研究を展開することで医科学研究所の推進する国際共同利用・共同研究拠点を機能強化し、またこの基盤を活用して、未来のワクチン開発研究を担う人材育成も進めたいと考えておりますので、皆様のご支援ご指導を賜れますと幸いです。

2022年4月吉日
国際ワクチンデザインセンター・センター長
石井健