事業の目的

事業の目的と概要

ワクチン開発が難しい理由として、病原体によって誘導されるヒトの免疫応答が非常に多様であり、残念ながら、その応答のすべてが病原体の排除に貢献しているわけではないことが挙げられます。

したがって、「病原体のアキレス腱を射る免疫応答」を速やかに見出すことが重要です。例えば、重症と軽症・無症状の免疫応答を詳細に比較すると、どの免疫反応が症状を軽くするのに重要か、すなわち矢となる免疫応答であるか、を早く、正確に見出すことができると考えられます。

当事業では、感染地域や重症度が異なる患者またはワクチン被験者などから血液などのサンプルを経時的に採取します(図3) 。

そして、サンプルから採取される免疫細胞を1細胞に分け、詳細に免疫関連の因子を解析します。さらに、トランスクリプトームなどのマルチオミックス解析も加えた形でデータを経時的に採取し、重症度や検査値などの臨床データ、およびゲノム医療情報を取り込んだ形で多層的、かつ多次元的なデータベース、名付けて多次元イミュノミクスを構築します。

このデータベースを基に機械学習から深層学習までのAI解析を行うことで、病原体のアキレス腱である抗原を同定し、かつその免疫反応の中で、どのような免疫が防御に重要かを割り出します。

その割り出した免疫応答が本当に防御に働くか、今度はマウスやサルを用いて実験的に検証、すなわち、感染防御に重要な病原体の「アキレス腱」を射る「矢」となる免疫応答をあぶり出し、ワクチンデザインにつなげます。

事業概要1:ヒト免疫プロファイリング

AI解析と動物実験による検証で最適な免疫をあぶりだすことができたとします。そこから、通常ですと、病原体そのものを鶏卵や細胞培養で製造しワクチンとする工程を踏みますが、これではほしい免疫が起こるか、また元に戻らなくてはいけません。

本提案ではそれをすべてスキップし、「矢」となる免疫応答をワクチンで再現するため、ワクチン成分を必須要素を3つに分けて、ほしい免疫だけを誘導する組み合わせをつくることを重要なステップとします(図4)。

すなわち免疫の特異性をきめる「抗原システム」、免疫の強度、方向性を決める「アジュヴァント」、免疫の場を決める「デリバリーシステム」を個別に開発、モジュール化し、最適の組み合わせを迅速に構築するシステムを開発します。このモジュール化ワクチンデザインによりアキレス腱を射る矢の免疫を正確に再現するのです。

事業概要2:新次元ワクチンデザイン

「矢」となる免疫応答をワクチンで再現 ワクチン3要素のモジュール化

医科研ではすでに新型コロナウイルスに対しても、抗原システムのひとつである「mRNAワクチン」、「アジュヴァントを用いた免疫療法」、デリバリーシステムのひとつである「粘膜投与ワクチン」などの開発が進行中であり、ワクチンのモジュール化の開発研究においても世界をリードする研究機関であります。

特に私が専門とするアジュヴァントについては、核酸アジュヴァントを中心に臨床応用可能なモジュールを多数用意しており、この強みを生かし、多様な免疫のニーズに対応するモジュール化ワクチン技術の迅速な開発を推進します。