新次元ワクチンデザインについて

ドラッグデリバリーとは

みなさんもピザの宅配サービスを利用したことがあると思います。彼らは電話一本で建物も部屋も間違えずに、あっという間に美味しいピザを届けてくれます。このように、必要な時に、必要な場所で、必要な人に、必要なものを届けるのは重要なことです。

お薬についても同じことが言えます。お薬を必要な時に体の中に安定して存在させる、必要な臓器に届ける、さらに必要な細胞に届けることで、目的の効果を高めることができます。また、目的の細胞だけに届けることで、他の細胞への影響(副作用に繋がる可能性がある)や、お薬の量を減らすことも期待できます。

このように、薬を体の中の目的の場所に、目的の時間に届けることをドラッグデリバリーと言います。

ドラッグデリバリーの技術を新しいワクチン開発に応用すると、より効果が高いワクチンの開発が期待できます。

一細胞免疫学とは

わたしたちは一人一人が全く異なる顔や身長、体重、年齢であり、個人差があります。体調も気分も時々で異なりますし、常に変化しています。それは人に限ったことではなく、細胞も同じです。一見同じ細胞に見えても個性があります。1細胞免疫学とはこのような「一つ一つの細胞の違い」まで含めて、免疫細胞の研究を行う学問です。

これまでの解析にはたくさんの試料が必要で、たくさんの細胞をひとまとめにして使う必要がありました。 1細胞免疫学では、特別な方法を使って一つの細胞を取り出し、とても少ない量の試料で解析を行います。これまで分からなかった細胞の個性や少ない数の細胞が見つかるかもしれません。一細胞解析技術を使用すると、ワクチンが免疫細胞に与える影響を詳しく研究できます。

一般的な免疫学

細胞の集団を解析に使う。それぞれの細胞の細かい違いは分からないが、試料がたくさん使える。

一細胞免疫学

1個の細胞を取り出して、そこから取れる試料で解析をする。それぞれの細胞の状態を詳しく解析できる。

抗原の重要性について

私たちの体の中の免疫細胞は、病気の原因になる細菌やウイルスなどの病原体が、体内に侵入していないか常に見張っています(図)。実際は免疫細胞に目や耳はありませんが、レセプターという手のような役割を果たす構造を持っています。このレセプターで「形」を判別することで、自分自身と病原体を異なるものとして認識することができます。これは「自己非自己の認識」と呼ばれていて、免疫細胞の重要な役割です。

そしてこのレセプターにぴったりとはまる構造物が「抗原」です。

ワクチンの役割は「病原体だけが持っている抗原」に対してだけ、免疫応答を活性化させることです。もし、抗原の形が自分自身の構造に近かったりすると、自分自身に対する免疫応答が起きてしまいます。また、抗原の形が変わってしまったりすると(変異)、ワクチンが効きづらくなったりします。そのため、できるだけ病原体が持っている特有の構造であって、変異によって変化しない構造を抗原としてワクチンに含ませることが重要です。良い抗原を見つけることは次世代ワクチン開発の重要事項です。

微粒子免疫学とは

わたしたちの体には様々な免疫細胞が存在しており、これまでの免疫学では細胞を対象にした研究が盛んに行われてきました。一方、体内には細胞よりサイズは小さいものの、細胞と同じように脂質膜で構成される細胞外小胞や膜構造を有さない微粒子が細胞外に存在します (内因性微粒子)。

これらは、細胞にとって不要な物質が細胞外に放出されたものであると考えられていました。しかし、これらの微粒子には機能的な核酸やタンパク質、脂質が含まれていることが分かり、近年ではがんや自己免疫疾患など様々な疾患の発症・進展への関与や早期診断のためのバイオマーカーとしての可能性が明らかになりつつあります。

さらに、PM2.5や黄砂などわたしたちの体外に存在する微粒子 (外因性微粒子) は、アレルギーや肺疾患などの原因として考えられており、どのように炎症反応を引き起こしているか注目されています。微粒子免疫学は、どのような微粒子がどのように免疫に影響しているかを明らかにし、微粒子に起因した免疫応答の制御を目指す学問です。

これらの微粒子を1粒子ずつ計測・分取する技術を開発できれば、微粒子レベルでのワクチン効果のメカニズム解明や、その知見に基づいた新しい次世代ワクチンの開発が可能となります。

リバーストランスレーショナル研究とは

実験動物や細胞を使った研究で得られた結果を、ヒトでの治療や診断に応用することを「トランスレーショナル研究」と言います。

実験動物をヒトに置き換えて(トランスレーションして)も、同じことが起こる(可能性が高い)という前提で、実験動物の研究結果をヒトに当てはめるものです。当然ですが、ヒトは実験動物と多くの点で異なっていますので、必ずしもトランスレーションできるとは限りません。その場合、実験動物での研究が無駄になってしまうこともあり得ます。かと言って、全ての研究をヒトで行うのは大変で、実験動物の何倍もの時間や費用、労力がかかります。

このようなことから、実験動物を有効に使用してヒトの研究を行うための手法が「リバーストランスレーショナル研究」 です。その名の通り、トランスレーショナル研究と反対で、ヒトで発見された原理を実験動物で実証します。これによって、ヒトでの現象を実験動物の手軽さで研究することができます。

ワクチンを投与したり、病原体に感染した患者さんの研究で得られた発見を動物モデルで実験的に検証することで、ヒトで効果的なワクチンを迅速に開発することが可能になります。