事業の背景

事業の背景

予防ワクチンは過去、現在を含めて最も成功した医療技術の一つといわれています。天然痘、破傷風、ポリオの新たな患者を診ることはなくなりました。このようにワクチンで予防できる感染症はVaccine Preventable Diseases、VPDと定義され、27あるとされています。

しかし、インフルエンザ、結核、百日咳、麻疹、風疹、HPVなど、すでにワクチンがあるにもかかわらず、種々の理由で感染症のコントロールが十分にできていないために病気がなくなっていない疾患もあります。

種々の理由、たとえば、インフルエンザ、結核、百日咳ではほとんどの人は抗体をもっており、ワクチンがあるのにもかかわらず効果が低かったり、長続きしなかったりと、結局病気はなくなっていないといった問題があるのはご存知かとおもいます。ワクチンは古くからある素晴らしい医療技術であるにもかかわらず、多くの課題を抱えているといえます。

一方で、現代のワクチン開発研究は、異分野の最新技術を取り込む形で巨大化しています。その開発には約20年の歳月、1000億以上の予算、10万人以上の被検者が必要とされ、以前からの経験的なワクチン開発とは比較にならないほど、大きな、科学技術の集合体、と化しています。

現在のコロナウイルスのワクチン開発の現状を見ても、産学官民連携のワクチンデザインチーム(コンソーシアム)が関連研究分野をすべて網羅しながら開発をすすめないと開発が進まない、終わらない、といわれています(図1)。

効果的なワクチンにはワクチン成分の3要素である、抗原、アジュヴァント、デリバリーシステムが必須であることが最新の研究で明らかになっています。そして、ワクチンの研究を実際の開発につなげるには、ヒト免疫研究、疾患研究、臨床研究からなる重要研究領域、さらにたくさんの関連分野の専門家が参入し、互いに連携しながら技術革新が進んでいくことが必要です。

従って、現代のワクチン開発研究は大きな科学技術の集合体として、それはまるで自動車や航空機産業の開発に近いといえます。

現代(近未来)のワクチン開発研究は、科学技術の集合体(図1)

開発に要する時間、予算、人材のコストがそのままワクチン実用化までの時間、値段に反映されることを鑑みますと、この複雑な開発のプロセスをシンプルかつ迅速に進めるイノベーションが希求されているのです。

このような状況のなか、我々はワクチンの必須3要素のメカニズム解明の研究をすすめていました。その中で新しい知見がでてきており、3要素を工夫すればワクチン開発はシンプルにできると考えるようになりました。そこで、抗原、アジュヴァント、デリバリーシステムの開発プロセスを一つ一つ磨きあげ、それらをモジュール化することでワクチン開発に破壊的イノベーションを起こそうとしています。

2020年、新型コロナウィルスのパンデミックは、
「ワクチン研究の重要性と緊急性」を改めて浮き彫りにした。

その破壊的イノベーションをまさに起こそうとしている矢先に、新型コロナウイルスのパンデミックは起きました。そして皮肉にもワクチン研究の重要性と緊急性が改めて浮き彫りになりました。

世界中で巨費が投じられ、一刻を争う形でワクチン開発が行われましたが、未だ多くの問題を孕んでおります。2020年上半期の時点で30,000報以上のCOVID‐19関連の論文が発表されましたが、くしくも7月7日号のNatureでは、いまだその30,000報の論文をもってしてもだれも解明できていない4つの謎を提示しています。

 

1.Why do people respond so differently?

(なぜ個々人の反応がこうも違うのか?)

2.What’s the nature of immunity and how long does it last?

(どのような免疫反応が、どのくらい続くのか?)

3.How well will a vaccine work?

(ワクチンはどのくらい効果があるのか?)

4. What is the origin of the virus?  

 

そのうち3つはまさにワクチンの普遍的な課題ですが、新型コロナウイルスに対するワクチン開発はこれらの謎を、謎としたまま、進んでいました。結果として、コロナワクチンの開発は歴史的な速さで成功したと言えますが、緊急事態を理由に、多くの無駄とリスクを伴った開発であったと言えます。

ポストコロナ時代のワクチン開発研究はいかにあるべきか?安全かつ効果的なワクチンを迅速に生み出すにはどうすれば良いか?我々は、その解決の鍵はヒト免疫の多様性の理解と、それに応じた、もう少し賢い、ワクチン設計と考えています。我々はこの点にフォーカスし、病原体の「アキレス腱」をみつけ、それを射る「矢」となる免疫応答を見出し、それを再現できる新次元ワクチンデザインが必要だと考えています。